和歌山といえば、熊野古道を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。熊野古道は王子社が点在する大自然の中で、山歩きができる貴重なスポットです。
各ルートには豊かな自然を感じる森や、敷き詰められた石畳、各所に点在する由緒ある寺社など、それぞれに魅力がありますが、今回は、その熊野古道のなかで唯一、白砂青松(はくしゃせいしょう)の砂浜を歩ける紀伊路ルートの『切目~千里の浜』コースついてご紹介します。
ウォーキングの前に知っておきたい!『熊野古道』の基礎知識
熊野古道は熊野三山と呼ばれる『熊野本宮大社』、『熊野速玉大社』、『熊野那智大社』を目指す熊野詣のための参詣道です。熊野詣は平安貴族の間で始まり、室町時代には庶民にも広がりました。また熊野古道とは1本の道ではなく、東西南北から熊野エリアをつなぐ5本の参詣道(伊勢路、紀伊路、中辺路、大辺路、小辺路)のことを指していいます。
道中には、熊野の神様の御子神(みこがみ)を祀った「王子社」があり、熊野古道沿いには「九十九王子※」と言われるほど多くの王子社が点在しています。
※九十九は実数ではなく、その数が多いことを表現したものです。

熊野本宮大社

熊野速玉大社

熊野那智大社
2004年7月、熊野三山を含む『紀伊山地の霊場と参詣道』が日本で12番目の世界遺産に登録されました。建造物だけではなく、「道」自体が世界遺産として登録されることは大変に珍しいケースです。
熊野古道は広範囲にわたり極めて良好に保全され、山岳や森林が一体となり、文化的景観を形成しているため「歩ける世界遺産」として知られています。

熊野古道
いにしえの人々がよみがえりを願って歩いた熊野古道はパワースポットとしても注目されています。深い緑に包まれた森が広がり、神秘的な雰囲気は人々を魅了してやみません。しかしそれだけではなく、5本の参詣道には、その道でしか味わえない潮の香りなど異なる魅力をもつルートもあるんです。
白砂青松の浜を歩ける唯一の参詣道が紀伊路『切目~千里の浜』コース
5本の参詣道のうち、京都城南宮を出発点として、堺市経由で和歌山県の田辺市までをつなぐコースが紀伊路です。熊野古道の中で白砂青松の浜があるのは紀伊路だけ。
白砂青松とは、その名称のとおり、白い砂浜に青々とした松の木が立ち並ぶ光景を言います。このコースには、道中の由緒ある王子や、万葉歌に込められた歴史の情緒、広がる梅林などの見どころがありますが、なんといっても熊野古道唯一約1.3kmにも及ぶ白砂青松の絶景を望めるコースなんです。
その白砂青松の浜は、伊勢物語や枕の草子でもその美しさを讃えられた『千里の浜』で、「熊野古道の中でも随一の景観」とも言われています。ちなみに海岸沿いを通れる距離はわずか約200メートル。『JR切目駅』からスタートするこのコースの最後地点になります。そして、『千里の浜』は、夕日が美しいことでも有名で、お昼すぎに出発すれば、白砂青松に浮かぶ、情緒豊かな夕日の姿を見ることもできそうです。
それでは、さっそく「切目~千里の浜」コースの見どころについて紹介します。

千里の浜/画像提供:みなべ観光協会
足のお宮さん『切目中山王子』
JR切目駅から約20分のところに『切目中山王子』があります。信仰の道をつなぐために熊野古道沿いに設けられた神社のことを熊野九十九王子と言いますが、切目中山王子はその一つ。足の痛む人に霊験があるとされ、草履や杖などが奉納されています。
また地元では「足の宮さん」として親しまれています。JR切目駅から切目中山王子までは上り坂で、後半の勾配はきつめです。切目中山王子に到着したら海を見下ろしながら最初の休憩を入れてもいいですね。

中山王子/画像提供:紀中を巡るHidaka History(日高広域観光振興協議会)
海のすぐそば『岩代王子』
熊野九十九王子のなかでも、最も早くから知られた有名な王子が『岩代王子』。かつては、拝殿の板に参詣者の人数、氏名、和歌などを書きつける習わしがあったとも言われます。熊野詣の際に人々は、岩代の神を敬い、祈りを捧げました。
岩代王子からは雄大な海と美しい砂浜を望むことができ、海は千里王子へ続きます。岩代王子まできたら、海岸でゆっくりと休憩をとるのもオススメです。

岩代王子/画像提供:紀中を巡るHidaka History(日高広域観光振興協議会)
絶景の千里の浜には『千里観音堂』
みなべ町にある『千里の浜』は伊勢物語にも詠まれている景勝地です。約1.3キロに渡り、白砂青松が続く海岸は「和歌山の朝日夕日100選」に選ばれ、インスタ映えスポットとしても人気があります。熊野古道で白砂青松の浜を歩けるのはこの千里の浜だけなので、貴重な経験ができるでしょう。
また千里の浜はアカウミガメの産卵場としても有名で、アカウミガメの産卵シーズンは5月中旬から9月下旬ごろまで続きます。千里の浜へ下りる途中に見えてくるのが『千里観音堂』です。本尊は厄除け観音として名高い馬頭観音。参道には33体の石像観音が祀られ、そちらも見ごたえ十分です。

千里観音/画像提供:みなべ観光協会
『切目~千里の浜』のウォーキングは初心者にもオススメのコース
『JR切目駅』からスタートし、『切目中山王子』、『岩代王子』に立ち寄り、『千里の浜』を目指す場合の移動距離は約7.7キロです。ガードレールの下をくぐったり、細い道を進んだりと多少わかりにくい道もありますが、アップダウンは少なめで舗装された道が多く熊野古道のなかでは比較的歩きやすいコースと言えます。
ただし「榎峠」という小さな峠越えがあり、切目中山王子から海沿いにでるまでは上り坂の後に緩やかな下り坂が続きます。休憩なしの場合の歩行時間は約3時間10分ですが、休憩をとることや各所を見て回ることを考えると、所要時間としては半日みておくといいかもしれません。

有間皇子結び松祈念碑/画像提供:紀中を巡るHidaka History(日高広域観光振興協議会)
JR切目駅から千里の浜へのウォーキングは山から海へと景色が移り変わり、飽きることなく楽しめるのがポイントです。比較的優しいコースとはいえ、休憩や水分の補給などもしっかりと行いましょう。

千里の浜/画像提供:紀中を巡るHidaka History(日高広域観光振興協議会)
紀伊路ウォークの疲れはホテルでリセット
歴史を五感で感じられる熊野古道。「切目~千里の浜」コースを満喫した後は、疲れた体をホテルでゆっくり癒してください。終着点である千里の浜はホテルの目と鼻の先にあります。帰りの電車の時間なども気にせずにホテルに直行できますよ。
夜になると、どっと疲れがでることも考えられます。広がる海と波音に癒される温泉露天風呂や、和歌山の山海の幸をふんだんに使った美味しい料理を堪能し、ゆっくりとお過ごしください。

※当ページの掲載写真はイメージです。